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最高裁判所第一小法廷 昭和41年(行ツ)13号 判決

名古屋市中村区日置通一丁目六番地

上告人

株式会社富国庶民金融

右代表者代表清算人

梅尾道久

右訴訟代理人弁護士

佐治良三

太田耕治

永井恒夫

後藤昭樹

名古屋市中村区牧野町六丁目三番地

旧名古屋西税務署長事務承継者

被上告人

名古屋中村税務署長 田中定男

右当事者間の名古屋高等裁判所昭和三七年(ネ)第六三六号法人税更正通知変更請求事件について、同裁判所が昭和四〇年一二月二〇日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人佐治良三、同太田耕治、同永井恒夫、同後藤昭樹の上告理由について原審の引用する第一審判決が当事者間に争いがないとして確定したところによれば、上告会社の営むいわゆる株主相互金融の方式というのは、次のとおりである。

上告会社は、その株主のみを対象として、株式払込金および営業利益金等自己資本を資金源として融資をするものであるが、まず、必要に応じて新株を役員その他の縁故者の引受によつて発行し、他方、その株式の譲受希望者を広く募集し、これに対して株式譲渡の斡旋を行なう。株主となつた者は、株式譲受代金をその譲受時に全額支払つた場合にはその後二〇日間、割賦支払をした場合には(株式譲渡人に対しては上告会社の立替によつて全額を支払い、株式譲受人は以後上告会社に対して右立替金を所定の割合で割賦弁済する)その完済後三〇日間経過すると、上告会社から融資を受け得るものとし、上告会社は、融資申込をした株主に対してはその所有株式の額面総額の四・八倍以内の金員を所定の利息を徴して融資し、その利息をもつて収益とし、他方、融資を受けない株主に対しては株式代金完済後所定期間毎に株主優待金と称する所定の割合の金員を支払い、それによつて融資を希望する株主と投資を希望する株主とを調整し、貸付資金の確保を図つた。

以上のような事実関係のもとにおいて、上告会社の支出した右にいわゆる株主優待金をその所得計算上損金に算入し得ないものであることは、当裁判所の判例とするところであつて(昭和三六年(オ)第九四四号同四三年一一月一三日大法廷判決、民集二二巻一二号二四四九頁)、これと同旨に出た原判決は相当で、論旨は採用できない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松田二郎 裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 岩田誠 裁判官 大隅健一郎)

○昭和四一年(行ツ)第一三号

上告人 株式会社 富国庶民金融

被上告人 名古屋西税務署長

上告代理人佐治良三、同太田耕治、同永井恒夫、同後藤昭樹の上告理由

原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違背がある。

一、法人税法(昭和二二年三月三一日法律第二八号)は、その第九条第一項において、法人の各事業年度の所得は「各事業年度の総益金から総損金を控除した金額による」と規定、右にいう益金、損金の意味内容については、特に個別的に規定する場合を除き、一般に解釈に委ねられているが、ある支出が益金、損金のいずれを構成するのか判断に当つては、その法的形式の外面にとらわれることなく、企業会計的思考を前提として、当該企業経営の実態を解明し、当該支出が企業の経営において果す役割ないし機能を実質的に把握考察して決定べきものと解せられるところ、原判決は、上告会社の本件株主優待金が右の益金、損金のいずれを構成するかの点の判断において、その法的形式の外面にのみとらわれその実質的役割ないし機能を無視したため、これをもつて益金を構成するものと解するの誤りを犯している。原判決の右判断は、結局、右の法人税法第九条第一項の解釈を誤つたものといわねばならない。

二、まず、本件各証拠により認定し得る上告会社の営業の実態について述べるならば、概略次のごときものであるといい得る。

上告会社は、貸金業を営業目的として昭和二五年五月頃設立され昭和二九年五月一〇日解散するまで継続してきたのであるが、上告会社はその株主のみを対象として融資をなすものであるから、上告会社より融資を受けるためには、その株主となることが必須の要件として要求される。他方、上告会社としては融資をなすべき自己資本を調達しなければならないのであるが、その調達の方法としては〈1〉増資をして新株を発行するか〈2〉既発行株式の譲渡の二つの方法がとられており、従つて、融資を受けるためには、右二つの方法に対応して、〈1〉増資に当つて新株引受人となるか、〈2〉既発行株式を譲受けるかの二つの方法があるわけである。

ところで上告会社は、増資に当つてはまずその役員または縁故者に新株を全部を引受けさせるのが通例であるから(もつとも、新株引受人は、実際に右引受株式の株金を払込むわけではなく、いわゆる見せ金による払込がなされていたにすぎない)、株主となろうとする者は、既発行株式の譲受の方法によつて株主となる以外に途はなかつた。そして、上告会社は外務員を動員してその株式譲受希望者を広く募集し、これに対して株式の売買の斡旋をなしてきたのであるが、株式譲受希望者は、株式譲受代金をその譲受と同時に全額支払う場合と割賦支払をなす場合と二通りあり後者の場合には上告会社において、一旦券面額相当の金員を立替え払いし、これを株式譲受人に日掛または月掛をもつて償還させ(もつとも実際には大半が割賦払による株式譲受の方法をとつていた)券面額相当の金員を全額償還させた後、株券又は株券保管証を譲受人に交付することとしていた。かようにして株主となつた者が株式の譲渡を希望する場合には、一定の期間を経過しておりさえすれば譲受人の有無にかかわらず、上告会社はこの者に対し、株式譲渡代金として券面額に相当する金員を立替払しなければならなかつた。

右の方法により株主となった者に対しては、上告会社は一定の期間を経過した後において(一時払の場合は払込後二〇日間、割賦払の場合は全額弁済後三〇日間)、一定金額を限度として持株券面総額の四・八倍までを所定の利息を徴して融資するものとし、他方融資を希望しない株主に対しては所定の期間毎に株主優待金と称する一般預金利子より高率の金員を支払うものとし、これによつて融資希望株主とこれを希望しない株主との利害を調整しつつ、貸付資金の確保を図つていたのである。上告会社においては、右の株主優待金以外には、正規の利益配当がなされていた形跡は全くなく、而も株主優待金は上告会社に利益があると否とを問わず、かつ決算期の如何にかかわらず所定の率をもって支払われていたものであり、上告会社の株式譲受人を募集するに際しての宣伝文句はいわゆる株主相互金融方式による手軽な融資と有利高率な株主優待金の支払ということであり、これを株主の側からみれば、融資を受けるのでなければ、高率の株主優待金の支払を受けることによる利殖を期待していたということができる。

三、そして、上告会社が右に述べたような業務運営方法を採つた動機は広く一般大衆から資金を吸収してこれを財源として資金業を営むことを禁じた「貸金業等の取締に関する法律」に触れることなく、事実上広く一般大衆から貸付資金を獲得することを企図することにあつたのであり、株主とか株式譲渡代金というも、それは単なる法的形式にすぎず、上告会社は利殖を欲する大衆に対して、当初より株式を取得せしめる意思なく、優待金の名目で有利な利息を回収し得る旨をもつて金員の提供を勧誘し、株主となる意思のないこれらの者から金員を受け入れ、よつて融資希望株主への融資等の事業資金に充てようとするものであつたのである。

四、右に述べたように、上告会社の株式の性質及び機能は一般の株式会社のそれとはおよそかけはなれた全く異質のものであることが看取され得るのである。

即ち第一に、上告会社においては、融資に当つて役員その他の縁故者が新株引受人となり増資の手続を整えているけれども、実質的な株金の払込がなされているわけではなく、また、増資手続による株式を譲受けた者のため上告会社は一時譲受代金を立替払してこれを割賦償還させるものとしているが、立替払というもそれは単に形式上名目上のものにすぎず、結局、実質的には譲受人から割賦金の償還がなされてはじめて株金相当額の社外よりの払込がなされるにすぎない。この点において株式会社に要請される資本充実の原則は全く無視されていることになる。

第二に、株主となった者は希望すれば、何時でも株券又は株券保管証と引換に上告会社よりその斡旋による譲渡代金の立替払を受けることにより、投資金員の回収を図ることができるのであるが、それは譲受人の有無とは関係なく、券面額で上告会社が自己の株式を取得することに他ならず、この点において会社法上の自己株式取得禁止の原則は全く回避されていることになる。

第三に、償還金の支払を完了した融資を希望しない株主は、前述のように、その払込金額に対し所定の率による株主優待金の支払を受けるのであるが、右株主優待金は上告会社の利益の有無にかかわりなく、かつ、決算期とは無関係に支払われるのであるから、この点において、一般の株式会社における株式配当(いわゆる蛸配当も含めて)とは時期及び手続において全く異つている。

第四に、株主優待金の支払を受けるためには、〈1〉株主は上告会社に償還金の支払を完了しなければならず、〈2〉償還金の支払を完了しても、一定の据置期間を経過しなければならず、〈3〉右の要件を具備しても上告会社より融資を受ける者は株主優待金の支払を受けることができないのであつて、これらの諸点において、同一同種の株主でありながら上告会社より受けるその取扱は一括ではなく、ここでは株主平等の原則は全く問題とされない。そしてかような同一同種の株主に対する株式関係以外の要素や条件による異別的取扱こそがまさに株主相互金融会社の本質的特徴なのである。

五、上告会社の株主相互金融会社としての特殊的性格から帰結されるその株式の性格及び機能がかように株式会社に固有の資本的性格及び機能を具備しておらず、実質的には預金的性格及び機能を有するというべきであつて、その経営の実態はむしろ銀行業と同一であつて融資を受けることを希望しない株主は銀行における預金者的存在であるといい得るのである。従つて、本件株主優待金なるものも名目はともあれその性格及び機能は株式配当ではなく、預金に対する利息と同一のものということができるのである。

右のように企業会計的思考を前提として、実質的に考察するときは本件株主優待金の支出は、法人税法上上告会社の損金を構成するものといわねばならず、この間の事情を看過してその法的形式の外面にのみとらわれ、これをもつて益金を構成するものと考えた原判決の判断は法人税法第九条第一項の解釈を誤つたものといわねばならない。

以上

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